口腔筋機能療法(OMT)とは

口腔筋機能療法(Oral Myofunctional Therapy:OMT)とは、口や舌・唇・頬などの筋肉を正しく使えるように訓練し、呼吸や嚥下、発音、姿勢などを改善する療法です。特に小児期における歯並びや顎の発育は、単に歯の大きさや遺伝的要因だけでなく、「口呼吸」「舌の位置」「飲み込み方」「姿勢」などの習慣によって大きく左右されます。これらの機能が正しく働かないと、歯列不正や顎の変形につながり、将来的な矯正治療をより複雑にする可能性があります。そこで注目されているのが、マウスピース型装置「マイオブレース(Myobrace)」を用いた口腔筋機能療法です。装置を装着しながら、筋機能トレーニングを組み合わせることで、歯並びの乱れを根本原因から改善することができます。

マイオブレース(Myobrace)とは

マイオブレースは、オーストラリア発祥のマウスピース型矯正装置で、従来のワイヤー矯正とは異なり、歯並びの悪さを引き起こす「原因」に直接アプローチすることを目的としています。素材は柔らかい医療用シリコンやポリウレタンでできており、装着感に優れています。使用は主に就寝時と日中1時間程度の装着を基本とし、歯に持続的な力を加えるのではなく、口腔周囲筋の使い方を改善し、自然な発育をサポートします。歯並びだけでなく、鼻呼吸の獲得、舌の正しい位置づけ、姿勢改善など、全身に関わる効果が期待できる点が特徴です。

  • ワイヤーを使わないマウスピース型装置
  • 原因療法として歯並びの乱れを根本改善
  • 鼻呼吸・舌位・嚥下習慣の改善に有効
  • 装着は夜間+日中1時間が基本

口腔筋機能療法(OMT)の目的

OMTの目的は、歯や顎の正しい発育を促すために必要な筋肉の機能を整えることです。歯列不正は遺伝的要因だけではなく、舌癖や口呼吸、間違った嚥下習慣といった後天的な要因によって引き起こされる場合が多くあります。例えば、口呼吸をしていると常に口が開いた状態になり、上顎の成長不足や出っ歯を招きます。舌の位置が低いままだと下顎の発育が妨げられ、歯列が狭くなることもあります。OMTでは、正しい呼吸法・舌の位置・飲み込み方を訓練し、これらの悪習慣を改善します。マイオブレースはOMTの一部として用いられ、装置とトレーニングの両輪で成果を高めます。

  • 歯列不正の原因となる悪習慣を改善
  • 鼻呼吸の獲得
  • 舌の正しい位置(スポットポジション)を身につける
  • 嚥下の改善(舌で押し出さない飲み込み)
  • 姿勢改善による顎の成長促進

対象となる年齢・症例

マイオブレースを用いたOMTは、特に成長期の小児において高い効果を発揮します。乳歯列から混合歯列期(およそ5歳〜12歳)が適齢期とされ、顎の骨が柔らかく成長が活発な時期に行うことで、自然な発育を促すことができます。すでに歯並びに不正が見られる場合だけでなく、将来の矯正治療を予防的に考えるご家庭にも有効です。症例としては、口呼吸、舌突出癖、開咬、出っ歯、叢生などが代表的です。また、大人でも一定の効果は得られますが、成長期ほどの骨格的改善は望めないため、主に小児に推奨されます。

  • 対象年齢:5〜12歳(乳歯列期〜混合歯列期)
  • 口呼吸が習慣化している場合
  • 舌癖(舌を前に押し出す癖)がある場合
  • 開咬・出っ歯・叢生の予防や改善

治療の流れ

マイオブレースを用いた口腔筋機能療法は、装置の装着とトレーニングを組み合わせて行います。まず初診で歯並びや呼吸習慣、舌位を評価し、必要に応じて資料(写真・X線・口腔内スキャン)を採得します。その後、適切なマイオブレースを選定し、装着方法やトレーニング内容を説明します。日常生活の中で正しく装着し、歯科医院での定期的なチェックを行うことで成果を確認します。家庭で行う舌・口唇・呼吸のトレーニングと組み合わせることで、効果はさらに高まります。治療期間は数か月〜数年に及ぶこともあり、継続が非常に重要です。

  1. 初診・精密検査(歯並び・呼吸・舌位の確認)
  2. マイオブレースの選定と装着指導
  3. 家庭での装着(就寝時+日中1時間)
  4. 口腔筋機能トレーニング(舌・唇・呼吸)
  5. 定期的な歯科医院でのチェック
  6. 治療期間の目安:半年〜数年

具体的なトレーニング内容

マイオブレースによる治療は装置の装着だけでなく、毎日のトレーニングが不可欠です。OMTで行う代表的なトレーニングは、舌を正しい位置に置く「スポットポジション」、唇を閉じる力を養う「リップトレーニング」、鼻呼吸を意識する「呼吸法トレーニング」などです。これらは装置を外した状態でも行うことができ、日々の習慣として定着させることが重要です。当院ではお子さまが楽しく継続できるよう、専用のエクササイズブックや動画を用いた指導も取り入れています。

  • 舌を上顎の正しい位置に置く(スポットポジション訓練)
  • 唇を閉じる習慣づけ(リップトレーニング)
  • 鼻呼吸トレーニング
  • 正しい嚥下の練習
  • 姿勢改善トレーニング(背筋を伸ばし舌を正しく位置づける)

メリット

マイオブレースを用いたOMTの最大のメリットは「原因にアプローチできる」ことです。従来の矯正は歯を動かすことで歯並びを整えるものでしたが、根本的な原因である口呼吸や舌癖を改善しなければ、後戻りのリスクが高まります。マイオブレースでは歯列不正を招く悪習慣を改善することで、自然な発育を促し、矯正後の安定性を高めることができます。また、抜歯やワイヤー矯正を避けられる可能性がある点も大きな利点です。さらに、鼻呼吸の改善は全身の健康にもつながり、いびきや睡眠の質の改善が期待されることもあります。

  • 歯並び不正の根本原因を改善できる
  • 抜歯やワイヤー矯正を避けられる可能性がある
  • 後戻りを防ぎ、安定性を高める
  • 鼻呼吸の改善による全身的な健康効果

デメリット・注意点

一方で、マイオブレースを用いたOMTにも注意点があります。最大の課題は「継続と習慣化」です。装置の装着時間やトレーニングを怠ると効果が十分に得られません。また、即効性はなく、効果が現れるまでに数か月〜数年かかるため、短期間での劇的な改善を期待するのは難しいです。さらに、重度の骨格性不正咬合や大人の症例では、単独では効果が不十分な場合があり、他の矯正治療と併用が必要になることもあります。こうした点を理解したうえで、正しい継続が成功の鍵となります。

  • 継続しなければ効果が出にくい
  • 即効性はなく、時間がかかる
  • 重度症例では単独での改善は難しい
  • 本人とご家族の協力が不可欠

当院の取り組み

当院では、マイオブレースを用いた口腔筋機能療法を専門的に行っています。初診時には精密検査を行い、呼吸習慣や舌位を含めて包括的に診断します。そのうえで、患者さまの生活習慣に合わせたトレーニングプランを提案し、ご家庭でも実践しやすいようサポート体制を整えています。また、定期的なフォローアップでは装置の適合状態をチェックし、トレーニングの進捗に応じてアドバイスを行います。お子さまが楽しみながら継続できる工夫を取り入れ、家族全体で取り組める予防矯正を目指しています。

まとめ

口腔筋機能療法(OMT)は、歯並び不正の原因である口呼吸や舌癖を改善し、自然な顎の発育を促す画期的な療法です。マイオブレースを用いることで装置とトレーニングを組み合わせ、根本的な改善を図ることが可能です。継続が必要である反面、将来的に抜歯やワイヤー矯正を避けられる可能性があり、全身の健康改善にもつながります。当院ではマイオブレースを用いたOMTを通じて、お子さまの健やかな発育と美しい歯並びをサポートしています。歯並びや呼吸でお悩みの方は、ぜひご相談ください。


【ご注意】本ページは一般的な説明です。実際の適応・治療内容・費用は患者さまの年齢や症例によって異なります。詳細は必ず歯科医師・歯科衛生士にご相談ください。